本記事ではこんな疑問を解決します。
結論から言えば、大学院修士課程で卒業するつもり(博士へ進学する気はない)であれば、進学する価値はありません。就職しましょう。
もし、あなたが積極的な理由で大学院への進学を検討しているのであれば、それは多くの可能性を秘めた将来への第一歩となると思います。
積極的な理由とは研究者を目指すことです。
※その他にも起業するために大学院と言う環境を利用するという考え方もありです。
しかし、明確な目的もなく「理系だし、とりあえず修士課程は出といた方がいいかな」という理由で進学する気なら、2年間分の時間と学費が無駄になるだけです。
- 理学部生の大学院進学率は42.8%、博士課程進学者は7.3%
- 大学院進学のメリット
- 大学院進学のデメリット
私は大学院博士課程3年目で物理学の博士号を取得し、その後ポスドクをしていた経験がある元研究者です(かなりの未熟者でしたが…)。
そのため、これから大学院へ進学を考えている人向けに「大学院へ進学するメリットとデメリット」について、元ポスドク目線で具体的なアドバイスをしたいと思います。
☑ 学部4年+大学院5年で物理学博士号を取得
☑ 某大学の研究機関でPDとして勤務(5年任期)
☑ PDの給料は360万円(年収)
本題に移る前に、大切なことをお伝えします。
もしあなたの大学院進学を考える理由が「研究を続けたい」「研究者になりたい」と思う積極的な動機であれば、進学するデメリットなどありません。迷わず研究を続けていきましょう。
目次
理学部生の大学院進学率は42.8%、博士課程進学者は7.3%
文部科学省が公表している「平成30年度学校基本調査」を参考にすると、大学(学部)卒業者の42.8%が大学院へ進学している状況です(平成30年3月)。

さらに、大学院修士課程に進学した理学部生のうち、17%が大学院博士課程まで進学しています(平成30年3月)。

つまり、大学に入学した理学部生の約7%が博士課程に進学しています。
ただし、博士課程に進学した人すべてが学位(博士号)を取得して卒業していくわけではありません。また、学位を取得しても研究職のポストを獲得できて職に就けるとも限りません。
個人的な間隔ですが、博士課程に進学した大学院生の50%が学位取得&研究職に就けている印象です。
つまり、理学部生の3~4%が研究者になることができる割合です(もしろん、大学によって偏りはあります)。
大学院(博士課程)進学のメリット
繰り返しになりますが、大学院修士課程で卒業するつもり(博士へ進学する気はない)であれば、進学する価値はありません。就職しましょう。
つまり、大学院修士卒にはまったく価値はありません。あえて言うならモラトリアム期間が2年増えるだけです。ただし、2年間分の時間と学費を無駄にするというデメリットがあります。
以下では、「博士課程まで進学することを前提」として、”元博士の経験”を踏まえて大学院進学のメリットをお伝えします。
※修士課程に進学する唯一のメリットは博士課程に進学することができることです。
大学院進学のメリット
- 世界最先端の現場を体験できる
- 視野が広がる
- 世界を飛び回れる
元博士としての経験に基づく意見になるため、リクルートなどの大手サイトでは書くことができないリアルな内容です。ぜひ参考にしてみてください。
大学院進学のメリット①
世界最先端の現場を体験できる
“研究機関”であり『研究』をする場所です。
大学院は教育機関ではなく多くの学生がこのことを「誤解している」or「理解していない」ため、修士課程で卒業することを前提に大学院へ進学しています。
※大切なことので何度も繰り返しますが、修士課程で卒業するなら大学院へ進学する価値はありません。
この違いに「ん??」っと思った人は要注意。
は世界最先端でなくては 『研究』『研究』とは呼べません。
誰かが既に解明している問題 or 既に確立された学問を学ぶことは研究ではなく『勉強』です(学部生の頃にいっぱい勉強しましたよね??)。
あなたが大学院でやるべきことは『研究』です。
※勉強しているだけでは大学院にいる意味がありません。
考えてみてください。どんなニッチなテーマであれ、その研究は人類がまだ知りえない問題を解き明かそうとする偉大な試みなのです!!
そして、そうした研究には最先端技術が使われることも珍しくありません。
いくつ具体例をピックアップしますね。
- 太陽から降り注ぐニュートリオを検出するための世界最大級の宇宙素粒子観測装置。
- 日本、アメリカ、中国、ヨーロッパ諸国の約40の大学や研究機関との共同研究が実施されている素粒子物理学の最先端の実験施設。
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- 世界最高性能の放射光(電磁波)を利用することができる実験施設。
- 国内外に広く開かれた実験施設であり、地球物理学や固体物理学、生命科学などの多くの研究分野で科学利用されている。
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- ハワイ島マウナケア山頂にある口径 8.2 メートルの光学赤外線望遠鏡。
- すばる望遠鏡は国内外の大学共同利用機関であり、多くの研究者たちによる観測研究・開発を促進している。
→ ホームページはこちら
大学院へ進学すると研究活動をしていく中で、世界最先端の研究施設・実験施設を利用する機会があります。
そうした機会は、研究者でしか体験できない貴重な経験であり、科学者の特権と言っても過言ではありません。
あなたが足を踏み込もうとしている世界は、今のあなたが想像できないドキドキが溢れた世界なのです。
大学院進学のメリット②
視野が広がる
研究とは「いまだ解決していな問題を解き明かす行為」であることをイメージしやすく例えるとなら「目の前に置かれた物体の正体を解き明かす行為」に例えられます。
ただし、その物体を直接見ることができません。さらに手で触ることもできません。さて、あなたはどのようにしてその物体の正体を解き明かそうと試みますか??
その行為こそが『研究』です。
例えば、光を当てて反射光を調べてみたり、振動を与えてみたりするはずです。
「この物体はこういうものかもしれいない」と仮説を立てて、その仮説に基づく実感をする。そうやって試行錯誤することで研究が進んでいきます。
物事を追求する行為はあなたの思考範囲、つまり視野を広げることになります。それこそが「あなた自身の成長」であり「専門性を身に付ける」ことに繋がります。
つまり、真剣に考え試行錯誤する過程を踏むことでしか研究を通して得られるものはないのです。大学院を勉強する場だと勘違いしたままでは、こうした成果を得ることはできません。
大学院進学のメリット③
世界を飛び回れる
研究していると、その成果を定期的に発表(報告)する機会があります。それが学会や研究会です。
各分野で開催される大きな学会から、より分野を絞って同じ専門性が高い研究内容で集まる研究会など、国内外問わず様々な学会・研究会が開かれています。
海外の大きな学会になれば、1週間スケジュールで開催される大きなイベントです。研究活動が盛んな研究者であれば、年に何度も海外出張する研究者(学生)も少なくありません。
ちなみに、研究者は研究費で参加するため、渡航費・宿泊費の実費ゼロで参加します。もちろん大学院生でも大学や研究室の研究費で実費ゼロで参加できることがほとんどです(日当もでていたかも)。
また、研究会や学会への参加は研究活動の実績になります。
特に研究者を目指す大学院生なら、少しでも多くの研究実績を積むことが研究者としてのキャリアを築くためにも重要になってきます。
私は大学院生の頃に、フランス、イギリス、カナダ、アメリカ、ニュージーランド、ベルギーなど、いろいろな国へ行く機会に恵まれ、それにより私自身の世界観がものすごく広がりました。
異国の地で知らない人に片言の英語で自分の研究について話を聞いてもらい、30%ほどの理解力でディスカッションする、という経験が自信につながり、それと同時に多くの苦い思いも経験し、そしてさらなる向上心を生み出す相乗効果となって、研究にいっそう励むことができました。
大学院(博士課程)進学のデメリット
大切なことなので何度でも繰り返して伝えます。研究者を目指さないのであれば大学院へ進学する価値はありません。
さて、十分なほどの大学院進学への魅力をお伝え出来たと思いますので、次にデメリットについても考えてみます。
大学院進学のデメリット
- 学費がかかる
- お金、将来への不安が付きまとう
- 劣等感で押し潰されそうになる
一番の問題は、お金です。。
学費も生活費もそうですし、将来の不安も劣等感も、結局はすべてお金の問題に帰結します。
大学院進学のデメリット①学費がかかる
国立大学の大学院だと年間50~60万円くらい、私立大学になると年間100万円くらいの学費が必要になります。
そのため、大学院5年間で300~500万円くらいの学費が必必要になります。さらに生活費を考えると、大学院博士3年目で学位を取得できたとしても、1,000万円前後の経済的負担になります。
これが大学院進学の大きな壁となっていることは間違いありません。
私の場合、奨学金で学費、生活費のすべてを賄(まかな)いました。そのたっけ、学部~大学院までで借入した奨学金は総額1,250万円。現在は800万円ほどのし奨学金を抱えています。。
※奨学金内訳の詳細はこちらをどうぞ。
大学院進学のデメリット②
お金、将来への不安が付きまとう
研究者になったとしても安定して職に就けるわけではありません。通常、若手研究員は任期付きの契約職員みたいなポジションです。
さらに、博士号を取得するまでに1,000万円前後の経済的負担があるのにお給料は全く期待できません。というか割に合ってないと言ってもいい。
一般的に、学位取得後の若手研究員の年収は300~400万円が相場です。詳しくは以下のページでポスドクや博士学生のリアルな年収状況を書いていますので参考にどうぞ。
≫【大学院博士進学後の進路】元ポスドクが見た博士たちのリアルな生活状況
もちろん、ボーナスや手当がないケースがほとんどです。さらに任期切れの不安を常に抱えています。さらに、次のポスト(雇用先)がなければ一瞬にして無職です。
高学歴ワーキングプア―です。
こうした不安を抱えながら、日々研究成果を積み上げていかなければ、次のポストを得ることさえできないのが研究者の現状です。
大学院進学のデメリット③
劣等感で押し潰されそうになる
経済的ストレスは、劣等感に直結します。
就職していった学部の同級生は、20代後半に差し掛かると結婚する同級生もいれば、マイホームを購入して家庭を築き始める同級生もでてきます。さらには、海外転勤するなど、人生のステージがガラッと変化する同級生も出てきます。
そんな中で自分は今でも大学生の頃と同じ部屋に住み、大学へと通っている。しかも学費を払ってまで。28歳で学位を取得できたとしても新卒で29歳。大卒で就職していった同級生とは6年の差。
念願叶って研究者になることはできたけど、任期付きの職務で将来の安定などないし新卒者が抱える借金にしてはあまりにも高額な奨学金。
そんな不安を抱える自分とは対照的に、めちゃめちゃ優秀な院生もいる。自分とは比較にならない研究実績で学振に採用されて、順風満々な研究生活を送っているライバルを見ると、劣等感を感じずにはいられません。
自分の存在意義すら見失いかねない状況の中で、まっとうに研究を続けることさえ難しくなります。鬱状態に陥るケースだって珍しくありません。
こうした状況でも、あなたは将来の目標を見失わずに前に進めますか??
不安や劣等感といった感情は、ほとんど経済的問題が根っこにあります。お金の問題を解決できれば、大学院への進学、研究者を目指すことに迷うなどないんですよね。
解決方法は“大学院生中に起業”すること。自分の力でなんとかしたいのならそれ以外に方法はありません。

まとめ
大学院・研究職だからこそ得られる貴重な経験があります。それこそが研究者の特権であり、やりがいにもなることは間違いありません。
しかし、その一方で「俺は研究者になるんだ!!」という揺るぎない決意がなければ、経済的な問題や将来への不安、さらには劣等感による精神的ストレスに押し潰されて、大学院博士課程で挫折してしまう可能性もあります。
大学院進学の メリット |
大学院進学の デメリット |
☑世界最先端の現場を経験できる ☑視野が広がる ☑世界を飛び回れる |
☑学費がかかる ☑お金将来への不安が付きまとう ☑劣等感で押し潰されそうになる |
進学する理由が明確でなければ、大学院へ行く価値はありません。
理由とは、研究者を目指すことです。
大学院は教育機関ではなく研究機関。
つまり、研究者を目指さずに大学院へ行く意味はありません。
大学院博士課程へ進学すること、研究者を目指すことは”とても価値がある”と、実際に大学院で学位を取得し、ポスドクとして研究職に就いた経験があるからこそ断言できます。
ただし、その価値に対する対価はお金では返ってきません。
経済的な不安がある人は、大学院在学中に『起業』してください。
プログラミングスキルを活かしてフリーランスとして活動することを強くおすすめします。これは突飛な意見やアドバイスではありません。元ポスドクだからこそ助言できる現実的なアドバイスです。
